交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
厳かな空気に満ちる中、ゆっくりと足を進めていく。リハーサルもなにもない、いきなりの本番が茉莉花を極限の緊張へ追い詰める。
「新郎、観月吉鷹様、新婦、伏見茉莉花様のご入場です」
かすかにざわめきはじめる参列者。「誰?」「なに、どうしたの?」と言った声が一部で上がった。花嫁が、結愛から別人に変わったことに驚きを隠せない様子だ。
自分がとんでもないことをしでかしているのを痛感する。
歩きはじめたものの、膝が震えて今にも躓きそうになる茉莉花を支えたのは、隣を歩く吉鷹だった。彼の腕を掴んでいる茉莉花の手にもう片方の手を添える。トントンと軽く二度、宥めるようにした。
おそらく〝しっかりやれよ〟と言いたいのだろう。彼にとって、今日の挙式はなによりも重要らしいから。
でも今は、その手だけが頼り。端整な横顔を見上げ、その視線をそのまま祭壇に向けた。
神父の前に並び、誓いの言葉を紡いでいく。指輪を交換し、ベールが持ち上げられる。
「では、誓いのキスを」