交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました

神父がたどたどしい日本語で促した。

美しい顔立ちをした新郎が、微かに笑みを浮かべる。
優美でいて妖艶なオーラを放つ彼が、茉莉花の本物の夫となる人だとうっかり錯覚し、不規則なリズムを刻む鼓動。瞳が揺れるのを止められない。

吉鷹がゆっくり近づいてくる。

(このままだと本当にキスしちゃう……!)

でも、ここで避けたら新婦ではない。とにかくこの場を花嫁として演じきることだけを考えていた。

体を硬直させて瞼をぎゅっと閉じる。そして次の瞬間――。

頬にやわらかな感触を覚えて目を開く。彼がキスをしたのは、茉莉花の頬だった。

偽物の花嫁と口づけなどできるものかと拒絶したのか、それとも偽りを演じる茉莉花に対する優しさなのか。

ホッとすると同時に肩から力を抜いた。
< 24 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop