交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
「彼女はもともとよく知らない相手。感傷的な気分にはなりようがない。結婚に夢は見ていないし、紙切れ一枚だけの関係だ。仮面夫婦になるのは目に見えていたから」
淀みなくさらっと言い、肉をひと切れ頬張った。
(よく知らないから感傷的にならない? 仮面夫婦になるのはわかっていた? なにそれ……。ちょっと無責任じゃないのかな)
なんとも形容しがたい不満が膨れ上がってくる。
将来を誓い合うはずの相手に背を向けられたのに、動揺しないし悲しくもないなんて信じられない。傲慢かつ真摯さの感じられない言葉が茉莉花の唇を突き動かした。
「そういうお考えだから新婦に逃げられたのではないでしょうか」
吉鷹がフォークの手を止め、茉莉花を見る。訝しむように目を細めた。
「政略結婚であれば、お互いに距離を縮めていく努力が必要だったと私は思います」