交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
「その場凌ぎでは意味がないのではないですか?」
突拍子もない命令に怯みそうになるのをぐっと堪え、はっきりと問いかける。
どのみち結婚が取りやめになるのなら、式を挙げても仕方ないとしか思えない。招待客を欺くようなものだ。
「招待客はもちろん彼の前に、新婦に逃げられた哀れな新郎の姿を晒すわけにはいかない。そのくらいはキミにも想像がつくだろう」
吉鷹は両手を天に向けて〝いい加減にしてくれ〟といった調子で肩をすくめた。外国の人がするような仕草が決まっているのが憎い。
「ですが、花嫁がすり替わったら招待客の皆様が驚かれます」
参列者が代わるのならいざ知らず、交代するのは主役。とうてい考えられない、受け入れ難い提案だ。
「大事なのは俺が今日、ここで式を挙げること。どのみち花嫁の顔すらよく知らない人たちばかりだ。多少の混乱は取るに足らない」
普通に考えたら〝多少〟ではなく〝大〟混乱だ。