砂糖漬け

第九話 慣れない煙草

本当に仕事なのか、そもそもアイはどんな仕事をしているのか、
ボクはアイのことを知らないまま、アイにのめり込んでいた。
アイがボクの生きる理由になっていた。
アイが居ない生活なんて、考えられなくなっていた。
だから、アイが其処に居るだけでよかった。
きっと世間の恋人同士だって、
お互いのことを1から100まで知り合っているわけじゃないだろう。
元カレや元カノの話をすべて知って付き合うわけでもないだろう。
多少の隠し事だってあるんだろう。
それが、結婚して、夫婦になってから隠し事を作ると、
色々と揉めたり、離婚したりするんだろう。

アイが置いていった煙草に慣れない仕草で火を付け、
初めて吸う煙に噎せ返りながら、そんなことを考え、
胸やけと頭痛を覚えたボクは、ベッドに入り、
そのまま眠りについた。
アイが帰ってきたのは、夜明け前だった。

それからもボクとアイの同棲生活は続き、
2月の誕生日にはアイがボクにスニーカーをプレゼントしてくれた。
「これで年の差が一つ縮んだね」
アイがそう言いながら微笑んだが、
あっという間にアイの誕生日がある4月になり、
「また2つお姉さんになっちゃった」
と言って、少しつまらなそうな顔を作った。
ボクはアイにピアスをプレゼントした。
小さなハート型のピアス。
アイは泣きながら喜んで、すぐにピアスを付け、
鏡を見ながら、また泣いていた。
涙でくしゃくしゃになりながら、
「ありがとう」と言ってボクにキスをした。

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