砂糖漬け

第十一話 嘘

ボクは、自分の想像が異常なまでに膨らみ、
鼓動が高鳴り、体が熱くなっていた。

こんな形のピアスはどこにでもあるし、
アイがピアスをなくした翌日に父のスーツから出てくるなんて、
そんな出来過ぎた偶然なんてあるわけない。
それにアイと父の接点なんてあるわけない。
アイがJAZZを買いに来たのも?
いや、きっと仕事場の知り合いに勧められたから来ただけだ。

ボクは自分に言い聞かせ、平静を装い、母に
「こんなのどっかで拾ってきたんじゃない?
それかボクにプレゼントでもしようとしたとか」
「アンタにハートのピアスなんてあげるわけないじゃない!
それにあの人、金曜日はいつも明け方になって帰ってくるのよ?」
「それは仕事が忙しいとかいくらでも理由があるだろ?」
「毎週毎週明け方まで残業するほど忙しいなんて信じられないわよ!」
「そんなの聞いてみないと分からないだろ!」
「昨日、あの人の同僚から電話があったのよ!
仕事でトラブルがあって聞きたいことがあるんですけど、帰ってませんか?って!
アタシはてっきり残業してるものだと思ったから、
『あら?主人なら会社にいるはずじゃ』て問い返したの!
そしたら『いえ、金曜日になるといつも家族サービスしなきゃ、って早く帰って、携帯も掛けるな、て言われてたんですが』って!」

いつもおっとりした母が、この時ばかりは早口でまくし立てた。
ひととおり説明し終わると、母は大きなため息を吐いて、
その場に座り込んだ。

母は、ずっと父を信じ、愛していた。
母は、いつからか分からないが、父に騙されていたのだ。
母だけじゃない。ボクも、騙されていたのだ。
父に、そして、父の愛人に。
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