砂糖漬け
第二話 新宿
毎朝、新大久保から1駅だけ山手線に乗り、新宿駅で降りる。
生まれた街はお世辞にも綺麗な街じゃなかった。
住民の大半は日本人ではなく、街にはハングル文字が溢れている。
最近でこそ至る駅や看板で見かけるこのハングル文字が、
幼少のボクには何かの暗号に思えていた。
同じ時間に起きて、同じ時刻の電車に乗る。
学生やサラリーマンの顔もいつも同じ。
だけど、ボクにとって唯一、「好きなこと」だった。
新宿に向かう山手線、先頭から3両目。
8時15分に彼女はいつもホームに居た。
肩までの黒髪、整った眉、黒い革ジャンにはたくさんのバッヂ。
細身のジーンズはLee。スニーカーはアディダス。
風に揺れる黒髪から少しだけ見えるピアス。片耳に3つくらい。
年はボクより上だろうか、いつも遠くを見つめていた。
寂しそうな横顔を見るたびに、声を掛けようか迷っていた。
同じ車両に乗り、同じ新宿駅で降りる。
東口で降りて、ボクとは反対方向に歩く。
小柄な割に、歩く速度はボクより早い。
スカウトマンを寄せ付けない為だろうか。
名前も知らないこの人に惹かれていくのに、時間は掛からなかった。
高校の頃に半年だけ交際した彼女以来、ボクには彼女、という存在は無かった。
無かった、と言うよりは、それがどうでもよく、ただめんどくさかった。
別れた時に言われた。「つまらない」という台詞が
ずっと心の中で響いていたからかも知れない。
確かに、あの頃も、今も、ボクは取り柄もないつまらない男だ。
そんなボクが、あの人に声を掛けたところで、
どうせ無視されるに決まってる。
生まれた街はお世辞にも綺麗な街じゃなかった。
住民の大半は日本人ではなく、街にはハングル文字が溢れている。
最近でこそ至る駅や看板で見かけるこのハングル文字が、
幼少のボクには何かの暗号に思えていた。
同じ時間に起きて、同じ時刻の電車に乗る。
学生やサラリーマンの顔もいつも同じ。
だけど、ボクにとって唯一、「好きなこと」だった。
新宿に向かう山手線、先頭から3両目。
8時15分に彼女はいつもホームに居た。
肩までの黒髪、整った眉、黒い革ジャンにはたくさんのバッヂ。
細身のジーンズはLee。スニーカーはアディダス。
風に揺れる黒髪から少しだけ見えるピアス。片耳に3つくらい。
年はボクより上だろうか、いつも遠くを見つめていた。
寂しそうな横顔を見るたびに、声を掛けようか迷っていた。
同じ車両に乗り、同じ新宿駅で降りる。
東口で降りて、ボクとは反対方向に歩く。
小柄な割に、歩く速度はボクより早い。
スカウトマンを寄せ付けない為だろうか。
名前も知らないこの人に惹かれていくのに、時間は掛からなかった。
高校の頃に半年だけ交際した彼女以来、ボクには彼女、という存在は無かった。
無かった、と言うよりは、それがどうでもよく、ただめんどくさかった。
別れた時に言われた。「つまらない」という台詞が
ずっと心の中で響いていたからかも知れない。
確かに、あの頃も、今も、ボクは取り柄もないつまらない男だ。
そんなボクが、あの人に声を掛けたところで、
どうせ無視されるに決まってる。