君が好きでたまらない!
水族館に着くと、「暗いから」と新さんが手を握ってくれた。いつかのデートの帰り道もそうやって手をつないでくれたと思い出す。『佳織』としてじゃなくても、新さんに優しくしてもらえるこの瞬間がうれしいだなんて、私はどうかしている。
(今日は楽しもう。傷ついても、今日を思い出に生きていこう)
「わぁ見てください! クラゲがたくさん! 素敵!」
ドームのような形の空間に、球体の水槽があり、美しくクラゲが舞っている。壁面にもあるたくさんの水槽の中で様々なクラゲが飼育されていて、幻想的な空間だった。
「……綺麗……」
「あぁ。きれいだ」
同じものを見て微笑みあうだけで、こんなにも幸せ。こんなこと今までの結婚生活ではなかったな。いつも新さんの後ろをついて歩くだけだった。振り返ってくれないと彼の顔が見えなくて。ううん、私も俯いていたのかもしれない。
大きな水槽をじっくり眺めたり、解説文を読んでその魚を二人で探したり、イルカのショーも大興奮で見つめた。隣を歩くことがこんなにも楽しいことを知った。
かつてのデートの中で一番楽しめていると思う。それは私が別人になりきっているからというのもある。どうしても今まで新さんに遠慮していたことを今になって自覚した。
この姿になって、「こうしたい!」「もっとみたい」という私の願望を伝えるたび、彼は嬉しそうに答えてくれる。私たち夫婦に足りなかったのはこういうコミュニケーションだったんだろう。そして、新さんの好みは、『佳織』のような内向的な女性より、今の元気ではっきり発言できる女性なのだろう。
一通り水族館をめぐり、お土産にお揃いのストラップを買った。そして今、海岸沿いの道を二人で散歩している。海に夕日が差し始めていて、水平線がとても美しい。
「楽しかったですね」
「あぁ」
海風が気持ちいい。手をつなぐのにも今日一日で慣れてしまった。これは浮気だなあ。お揃いのストラップとか、浮気だなぁ。これからどうしよう。
そんなことを考えていたらふと、目の前に影が差した。そして気付くと、新さんの顔が度アップになっていて、変装した私にキスをした。
あぁ、本当に裏切られてしまったんだ。私も別人に変装して、新さんを騙している。そして不倫相手として、楽しんでいたけれど。新さんにとって、妻の私は裏切ってもいい存在に成り下がっていたのだろう。
キスのあと、はらはらと私の目から雫が零れ落ちる。新さんは焦って「どうした?」「かえろうか?」と色々と気遣ってくれたが、何も答えられなかった。涙の理由を説明するわけにもいかず、メイクが落ちてしまうと困るので、なんとか持ち直し「帰りたい」と告げた。
帰りの車内は、『佳織』と変わらない沈黙が流れていた。
(今日は楽しもう。傷ついても、今日を思い出に生きていこう)
「わぁ見てください! クラゲがたくさん! 素敵!」
ドームのような形の空間に、球体の水槽があり、美しくクラゲが舞っている。壁面にもあるたくさんの水槽の中で様々なクラゲが飼育されていて、幻想的な空間だった。
「……綺麗……」
「あぁ。きれいだ」
同じものを見て微笑みあうだけで、こんなにも幸せ。こんなこと今までの結婚生活ではなかったな。いつも新さんの後ろをついて歩くだけだった。振り返ってくれないと彼の顔が見えなくて。ううん、私も俯いていたのかもしれない。
大きな水槽をじっくり眺めたり、解説文を読んでその魚を二人で探したり、イルカのショーも大興奮で見つめた。隣を歩くことがこんなにも楽しいことを知った。
かつてのデートの中で一番楽しめていると思う。それは私が別人になりきっているからというのもある。どうしても今まで新さんに遠慮していたことを今になって自覚した。
この姿になって、「こうしたい!」「もっとみたい」という私の願望を伝えるたび、彼は嬉しそうに答えてくれる。私たち夫婦に足りなかったのはこういうコミュニケーションだったんだろう。そして、新さんの好みは、『佳織』のような内向的な女性より、今の元気ではっきり発言できる女性なのだろう。
一通り水族館をめぐり、お土産にお揃いのストラップを買った。そして今、海岸沿いの道を二人で散歩している。海に夕日が差し始めていて、水平線がとても美しい。
「楽しかったですね」
「あぁ」
海風が気持ちいい。手をつなぐのにも今日一日で慣れてしまった。これは浮気だなあ。お揃いのストラップとか、浮気だなぁ。これからどうしよう。
そんなことを考えていたらふと、目の前に影が差した。そして気付くと、新さんの顔が度アップになっていて、変装した私にキスをした。
あぁ、本当に裏切られてしまったんだ。私も別人に変装して、新さんを騙している。そして不倫相手として、楽しんでいたけれど。新さんにとって、妻の私は裏切ってもいい存在に成り下がっていたのだろう。
キスのあと、はらはらと私の目から雫が零れ落ちる。新さんは焦って「どうした?」「かえろうか?」と色々と気遣ってくれたが、何も答えられなかった。涙の理由を説明するわけにもいかず、メイクが落ちてしまうと困るので、なんとか持ち直し「帰りたい」と告げた。
帰りの車内は、『佳織』と変わらない沈黙が流れていた。