君が好きでたまらない!
「あの、カフェの前で降ろしていただけますか」

「なぜ? このまま家に──」

「職場に! 用があったのを思い出して!」

 唐突にデートの終わりを告げた。新さんは慌てているようだが、運転中なのでよそ見出来ない。見知った交差点で赤信号になったので、ここで車を強引に降りることにした。

「今日はありがとうございました。さようなら」

 そう言い残して車を降り、走り去った。新さんの声が聞こえた気がしたが、無我夢中で通りを全力疾走する。
 メイクをした私は今日でおしまい。新さんとの楽しい思い出も今日が最後かもしれない。それでももう、耐えられなかった。私は『佳織』として新さんに見てもらいたかったんだ…。

「お姉ちゃんっ」

 姉は仕事を片付けながら私の帰りを待っていてくれたようだ。私がオフィスに入ると手を止めてパソコンを閉じ、私の方に来てくれた。

「どう? 上手くいった?」

「〜っ! ……ふっ、ふぇっ」

「えっ、佳織? どうしたの!?」

 姉の顔を見たら安心してしまって、一気に涙が溢れる。楽しくてうれしかったけれど、それ以上に裏切られて苦しく辛く心が痛かった。悔しかった。私だけが彼を愛していた。まだ結婚して一年なのに。どうして簡単に裏切ることが出来るの。飼い殺しにするくらいなら、離婚を切り出してくれたらいいのに! 私の一年は何だったの……。

 疑問や怒り、どうしようもならない感情が、腹の中だけでは収まり切れずに、あふれ出していく。うまく言語化することも出来ず、ただ、姉の胸で泣いた。
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