君が好きでたまらない!
 内向的な性格のせいか、一度落ち込むととことんネガティブになってしまう。新さんからの連絡を待ちながら、寝室に行ってもなかなか寝付けず枕を濡らしていると、深夜になって新さんが帰ってきた。

「──今帰宅したところだ。……ああ。わかった。また明朝チェックするからデスクに置いておいてくれ。君も遅くまでお疲れ様」

 仕事の電話のようだ。部下を労う、その声が優しくて、もしその部下が女性だったらと思うと、少し羨ましい。こんなこと考えてしまうなんて。泣いた顔を見せたくなくて、そのまま寝たふりをすることにした。

 食事を温めなおす音がする。用意した食事を食べてくれることに、少しだけ気分が浮上する。やっぱり起きて、「おかえりなさい」って言おうかな。でも泣いた顔を見て、どう思うだろうか。彼は私に対して何の恋愛感情もないのだとしたら、重いと思うだろうか。

 悩んでいる間に食事を終え、入浴した彼は、寝室に入ってきた。

 私たちの寝室は、ダブルベッドが二つ並んでいる。それぞれのベッドに眠るスタイルだ。私は、彼のベッドとは逆方向に顔を向けて寝たふりをしている。
 新さんが彼のベッドに入るのだと思っていたら、意外にも私のベッドに腰かけた。そしてゆっくりと私の頭を撫でる。

「……佳織……」

 その切なげな声にドキっとする。今更起きていることを悟られるのも恥ずかしくて、ただただ寝たふりをしていた。頭を撫でる手はどこまでも優しくて、じわりのまた涙が滲みそうになる。愛されているのではないかと、こうして誤解してしまいそうな瞬間がたくさんあった一年だった。だから最初は気づけなかったのだ。

 いつの間にか眠っていたようで、起きるとカーテンの向こうは明るくなっていた。まだ7時前だというのに、彼は出社したようだ。きれいに洗われた食器を見て、切なくなる。寂しい。結婚していてもずっと片思いの気分だ。

 新さんにはほかに大事な人がいて、私とは別れたいと思っていたら。結婚記念日なんて面倒だと思っていたら。

 そんな妄想をして、一人うずくまって泣くしか出来なかった。
< 6 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop