君が好きでたまらない!
疑う気持ちが止まらない
「浮気してんじゃない?」
梅雨が終わりを迎えそうな晴れた日、私は父の経営する芸能事務所にいた。一年前まで勤めていた職場でもある。当時から応援していたタレントの子が、ドラマで主演を務めることになったので、お祝いに来たのだ。弱小プロダクションである我が事務所から、ドラマ出演というだけでもすごいのに、主演だなんて!こういう瞬間、父の人を見る目が本物だと痛感する。金の卵だったことが証明されて、結果に現れることが心の底から嬉しい。本人にも豪華な花束と最近話題のパティスリーでプリンを買ってきて差し入れした。
そこでヘアメイクとして働いている姉とお茶をすることになり、様子のおかしい私を姉が目ざとく気付いて洗いざらいはかされてしまったのだった。
「佳織はどうしたいの? 離婚したい?」
「ううん! そこまでは……。話し合わなくちゃってわかってるんだけど、でもなかなか勇気がなくて」
姉の口から『浮気』や『離婚』という具体的にショッキングなワードが飛び出して、動揺してしまう。夫婦に夜の営みがないことは、すなわちそういう発想につながるのだと実感してしまった。
「探偵を雇って浮気調査してみるとか!」
「大手神宮寺グループの社長だよ? 探偵が尾行したらSPさんに捕まるんじゃないかなぁ……」
「うーん。ハニートラップとかしかけてみる?」
「そ、そんなの見たくないよ! 他の人と新さんが……なんて」
「じゃあさー佳織が変装してアタックしたらなびくか試してみたら? それで浮気しちゃうなら離婚だ離婚!」
「変装!? ばれるよ! 声とかで私って分かるだろうし」
「佳織って見た目が可愛いアイドル顔だから、派手にメイクすれば別人になれるかもよ? 別人として新さんに会ってみたら、意外と言いたいこと言えるかもしれないし」
まぁまぁやってみろ、と言われ、とりあえず派手なメイクをしてみることになってしまった。私の3歳上の姉は、昔から思いついたら即行動する直感型の人だ。ヘアメイクの道にすすむと決めたとき、彼女はあっという間に進学先を決め、いつの間にか留学してメイクの道を極め、帰国すると父の芸能事務所に入社した。母曰く、「行動力があるところは、パパ似」らしい。一度決めたら頑固なので、姉に逆らうのは時間の無駄だと知っている。私はおとなしくメイクを施してもらうことになった。