クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
「嫌がる彼女を無理矢理連れて行こうとしか見えませんでした。
これは拉致被害未遂として十分立証できますよ。
ちなみに僕は弁護士です。」
紗奈は驚き、初めて助けてくれた男性の顔を見上げる。
男性はスーツの胸ポケットから名刺を差し出し紗奈に渡す。
『浅田法律事務所 田中聡』
本物の弁護士さんだ。
よく見ると高級そうな三揃の紺のスーツに身を固め襟元には弁護士バッチが光っていた。身長は要と同じくらい長身で爽やかな笑顔でにこっと笑いかけてくる。
「もし、なんならお力になりますので、こちらの男性を訴えますか?」
はきはきとした喋り方も好印象だ。
「ぼ、僕はただ知り合いだったので声をかけただけです。じ、じゃあ、またね。紗理奈ちゃん」
そう言って男は小走りに階段を駆け上がって行った。
「助けて頂き、ありがとうございました。」
呆気にとられて一瞬ポカンとしてしまったが、慌てて気を取り直し紗奈は田中に深々頭を下げる。
「気をつけて。
知り合いだって言ってたけど、この都会で偶然知り合いに会えるなんて確率低いから、きっと待ち伏せしてたかもしくはストーカーされてたかもしれないよ。」
紗奈はびっくりして目を見開く。
「…ストーカーですか…そう言えばさっき今日は1人なんだねって言われました…。」
「なるほどね、
普段からどっかで見てたって事だね。
君が1人になる時を待ってたはずだ。出来るだけ同じ時間帯の電車は避けて、1人では行動しないようにした方がいいよ。」
「…そうなんですね…。いろいろアドバイスありがとうございます。」
紗奈はもう一度頭を下げてお礼を言う。
「腕、血が出てる。大丈夫?痛くない?」
えっ⁉︎と握られた方の腕を見ると一筋引っ掻き傷があった。
「あっ、全然気付きませんでした…。」
「僕、絆創膏持ってるのでちょっとそこのベンチに座って下さい。」
「これくらい大丈夫です。痛くないのでお気になさらず…。」
そう伝えたけれど、笑顔でベンチに誘導され断りきれずに、仕方なくベンチに座る。
田中は優しい手つきで絆創膏を貼って紗奈を見つめる。
「君は、可愛いし素直でいい子だけど隙があり過ぎて心配になるな。」
「す、すいません。気を付けます。」
要にも言われたなぁと思いながら素直に謝る。
「まぁ、ここで会えたのも何かの縁なので、困り事があったら連絡して下さい。この駅ビルに事務所があります。ストーカー被害、不倫訴訟なんでも受付ます。」
営業口調でそう言って、にこりと笑い「では、また。」と手を振って、田中は改札口へと去って行った。
紗奈はしばらくベンチから動けずボーっとしてしまった。