クールな准教授は密かに彼女を溺愛する

兄、現る


それからその週の金曜日、

大学の全体会議の為、紗奈は1人先に帰り要のリクエストであるチキンカレーを作っている。
要はいつもなんでも美味しそうに食べてくれるので作り甲斐がある。

今夜のメニューはチキンカレーにマカロニサラダ、卵スープお替わりするはずだからいつもカレーは多めに作る。

あと少しで完成という所で、不意に玄関のチャイムが鳴る。

宅配便かなぁとモニターを覗くと、背広をきっちりと着たサラリーマン風の男性が映る。

「はい、どちら様ですか?」
紗奈は怖々訪ねる。

『今晩は、突然すいません。
要の兄の翔(かける)と申します。父から要に渡す様言われた書類があって持って来たんで開けて頂きたい。』

お兄さんは確か、お父様の会社の常務だと聞いている。そんな役職の人が忙しいだろうにわざわざ自ら届けるなんてと、紗奈は緊張の面持ちで返事をする。

「要さんはまだ帰っていませんが、私で良ければお預かりします。今、開けますので。」

急いで解錠のスイッチを押して出迎える準備をする。お兄さんには私の事話しているんだろうか?もしかして家政婦さんだと思われているかも?

身だしなみを整えて、玄関チャイムが鳴る前に玄関に向かう。

ピンポン

玄関チャイムが鳴り、紗奈は1つ大きく深呼吸してからドアを開ける。

「すいません。わざわざお届け頂いてありがとうございます。」
ペコリと頭を下げて、お兄さんをお迎えする。

「初めまして、兄の翔です。貴方は?」
爽やかな笑顔で微笑む翔はどことなく要に雰囲気が似てると思う。

「は、初めまして。中山紗奈と申します。」

「要から話は聞いてます。
この書類なんですけど、要に渡してもらえますか?」

「あっ、はい。お預かりします。」

紗奈はドアを大きく開けて書類を受け取り頭を下げる。

「何かいい匂い。今夜はカレーなの?」

「はい。要さんのリクエストで今夜はチキンカレーです。」
翔が突然砕けた話し方になったので戸惑いながら答える。

「へぇ。あいつカレーが好きなのか、知らなかったなぁ。
要、他人を寄せ付けないとこあるけど、紗奈ちゃんには心開いてるんだな。安心した。」
兄らしい事を言ってにこりと爽やかに笑う翔に、紗奈も少しだけホッとして微笑む。

「香りで腹減ってきたな。」

「あの、もし良かったら食べていかれますか?
あっ、ご結婚されていましたよね。すいません、奥様がお待ちですよね…。」
そう言えば要から、お兄さんは結婚していて子供も居ると聞いた事を思い出し、紗奈は急いで取り繕う。

「ははっ。奥さんは子供を連れて週末は実家に戻るって、今夜は1人で外食だよ。
食べさせてもらえるなら有難い。」
翔はそう言って、入ってもいいと手で示し靴を脱ぎ始める。

要が居ないのに上げてしまって良かったのかな?と、一瞬紗奈は戸惑ったが今更引くに引けないと、後から携帯に連絡を入れておこうと思い直し、お客様用のスリッパを並べる。
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