クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
松永は一息ついて話し出す。
「私、2年ほど前にある建築のコンペで貴方の発表を拝見しまして、一目惚れしました。
とても輝いて見えてそれからずっと貴方とお知り合いになりたくて、いくつか無理を言って学会や研修に参加して何度かお話をさせて頂いてます。
つまり、貴方が好きなんです。結婚を前提にお付き合いして下さい。」
「申し訳ないが俺と貴方では不釣り合いだ。
俺は北原を名乗っているが、妾の子で会社を継ぐ事も無ければ北原家にとっては目障りな存在だ。
貴方と例え一緒になっても贅沢はさせてあげられないし、好き勝手も出来ず肩身の狭い生き方しか出来ない。
貴方にそれが耐えられますか?」
「えっ…、でもお母様はそんな事一言も仰らなかったわ…。」
「母は俺を厄介払いしたいだけだ。
貴方のお父上との繋がりが欲しいだけ。貴方は騙されてる。」
向こうから断ってくる口実を要は並べたてる。
それを田中は感心して聞いていた。
頭がキレるとは思っていたが、後腐れないように、紗奈の事もひた隠し、上手く嫌われるようにそむけるなんて。
松永を見ると明らかに動揺している。
御曹司だと思い近づいてきたに過ぎないと要は勘づいていたし、今迄言い寄って来た女性は皆彼女の様なタイプばかりだった。
「それに、俺は普段から設計に夢中で四六時中設計の事ばかり考えてるようなつまらない男だ。こんな男と一緒になったら退屈な人生だ。辞めた方が貴方の為です。」
苦笑いして要は立ち上がり、田中に頭を下げる。
「田中弁護士、後はお願いします。」
「分かりました。後はお任せ下さい。」
田中も立ち上がり手を差し伸べて握手を求める。
「ありがとうございます。
またジムでお会いしましょう。」
お互い硬く手を握り合って、要は松永には一度も目もくれず背を向け颯爽と去って行く。
松永は唖然とした顔で一言も発する事もせず、しばらく放心状態だった。