クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
コンコンコン。

コーヒーを飲もうと席を立ちお湯を沸かしていると、ドアがノックされる。

「どうぞ。」と言いながらドアを開ける。

「あっ。遅くなってすいません先生。」

慌てて来たのか少し息が上がって、前髪が乱れている。
自然と前髪に手が伸びそうになって、
自分を制する。

この手は、好きあらば彼女に触れようとする。
気をつけなければ。

「どうぞ。中に入って、ソファに座って下さい。今、書類をお渡しします。」

彼女を部屋に誘導し、予め用意してあった書類を机に取りに行く。

良いタイミングでお湯が沸く。

「何か飲まれますか?」

「い、いえ。お構いなく。 

逆に、何か飲まれますか?私がお作りします。」

「えっ。」と要が反射的に顔を上げ彼女を見る。

「あっ。
だって、私は先生のゼミ生になるんですし、
先生のお手伝いをして当然だと思ったんですけど、出過ぎた真似をすいません。」

恐縮して肩を落とす。

やっぱり彼女だ。
外見が変わっても中身は昨日のまま何も変わら無い。
その事にホッとし口元が緩む。

「昨日と、随分見た目が変わりましたね。
どうか、したんですか?」

一教師として聞いて良かったのかは疑問だが、要としてはそこが一番気になっていた。

「えっーと。

昨日、去年先に編入した友達に会って…
都会でその格好はどうかって話しになって…いろいろさせられて、こんな感じになってしまったんですけど…

似合わない、ですよね?」

「いえ。ただ気になっただけで、感じは凄く良いと思います。

でもメガネは?
かけなくて大丈夫ですか?」
 
教師の質問としては本当に一脱してしまっているが止まらない。

「目はコンタクトを買いました。
まだ、慣れなくてゴロゴロするんですけど。」

「コンタクトは目が乾くので、こまめに目薬を挿した方がいいですよ。
それに目が疲れるのでメガネと交互に使った方が良いのでは?」

要らぬアドバイスまでしてしまう。

「そうなんですね。気を付けます。」

「先生もコンタクトを使う時があるんですか?」

「あっ、いえ。これは伊達メガネなんで。」
言ってから、
あっ!やばいと思ったが時遅し、

「えっ、伊達メガネなんですか?」
目をパチパチさせて彼女が問いかける。

「…年中、花粉やらハウスダストやらで目がやられるので…」
今のはちょっと失言過ぎた。

自分はどうしてしまったのだろうかと要は思う。
今まで異性に興味を持たれる事はあっても、自分からはまったく寄せ付けず、むしろ誰とも深く関わる事を避けてきた。

なのに何故、こんなにも彼女に感情が動かされるのか訳が分からない。
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