クールな准教授は密かに彼女を溺愛する

日頃から言葉を発する職業がら、細心の注意を払って発言しているはずなのに、
彼女と話しているとそれが無になってしまう。

「コーヒー飲ませてもらっていいですか?
中山さんは?コーヒー飲めますか?」

「はい。大丈夫です。あっ、私が。」

「今日はまだ貴方がお客さんなので、大丈夫ですよ。次回からお願いします。

それにうちのゼミ生は自由勝手に飲んでますから気にせず飲んで下さい。」

「ここにご自由にって書いてあるでしょ。」
そう言って要は笑う。

彼女と話していると穏やかな気持ちになるのはなぜだろう?

気持ちが安らぐと言うか、もっと話していたい様な気持ちになる。

「暗くなってしまったから、早めに詳細を話しますね。」

そう言って、コーヒーを2人分用意した要は紗奈の前のソファに座り、ゼミの内容を掻い摘んで説明した。

「フィールドワークも春、夏、冬であります。こちらは、お世話になっている建築家の最新の作品を見せてもらったり、古き良き時代の建物を探訪したりします。

自由参加なので、時間があったら是非参加して下さい。」

「あの。コンペや出展が4回ありますが、これは共同制作なんですか?」

「ああ、必ず始めにゼミ内でコンペをやってから、良い作品を絞ります。決まったら、その作品をもっとより良いものにする為意見を出し合います。

これは、コンペに参加する設計事務所でも良くやる手法なので、就職した後もこの経験が活かせるはずです。」

「楽しそうです。ちょっとワクワクします。」
にこやかに微笑む彼女が眩しくて、要は目を細める。

「どうしても、学校からの補助金が不足したり、フィールドワークなども参加費がかかる場合がありますが大丈夫ですか?」

授業料さえもなかなか払えなったくらいギリギリな様だし、ゼミの出費がかさむ事に心配になる。

「大丈夫です。
バイトも始める予定ですし、もちろんゼミには影響しない様に働くつもりですので。」

ゼミに入ると本当に時間が取られる為、
いつバイトするのだろうと心配になる。

が、これは彼女のプライバシーになるし、
一教師として立ち入ってはいけない領域だと判断する。

「ゼミは部活の様な物で時間が結構取られてしまう為、ゼミ生は夏休みなどまとまった休みに短期でバイトしてるようですが、
山中さんも時間のやり繰りを頑張って下さい。
どうしてもの場合は自分に相談してくれれば何とかしますので。」

本人からの相談であれば教師の領域内だろうと判断した。

「ありがとうございます。」

「あと、いろいろ考えましたが、コンペ前の忙しい時期、終電が無くなったら、自分が責任を持って自宅まで送られてもらいます。深夜12時を超えない様にしましょう。」

「えっ!

それはダメです。
先生の手を煩わせる事は出来ません。 
先生だってコンペで忙しいはずです。」

うーん。と要は少し考え込む。

「車の運転は好きですし、気分転換にもなるので、自分の事は気にしなくて良いのですが…
じゃあ。

2案として、中山さんの同学年に女子生徒が1人います。
彼女の住まいは学校近くだと思うので彼女に泊まらせて貰える様に聞いてみましょうか?」
 
それだったら先生のお手間は取らせない、仲良くなれるといいなと思いながら、

「2案の方でお願いします。

私の方は近くのバイトを探してるんですけど、
仮眠室がある所がないかと思っています。
そんなに、希望通りの所は少ないと思いますが…。」

「無理はしないで下さい。

何か心配事があったら、自分の方に相談してくれれば良いので。」

「これ、研究室の連絡先です。」そう言って要は名刺を渡す。
自分のプライベートの携帯番号を書こうか迷ったが、辞めておいた。

「ゼミが始まったら、ゼミ生でSMSを繋げますので、連絡や質問はそこでも大丈夫です。」
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