クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
帰路を急ぐサラリーマンやOL、学生で駅の構内は混み合っていた。

なのに、要について歩くだけで上手く誰ともぶつからずにすんなり改札口に辿り着く。

紗奈は肝心な事を思い出して慌てる。

そうだ、先生に借りてたハンカチ返さなくっちゃ。
カバンの中を探りハンカチを取り出す。
その間、振り返った要は紗奈を人混みから守る様に立ち心配そうに紗奈を見下ろす。

「あの、先生、忘れてたんですけど、ハンカチありがとうございました。」
両手を添えて要に差し出す。

要は一瞬そのハンカチを見て、サッとポケットから財布を取り出したかと思うと、一万円札を一枚ハンカチに挟んで、紗奈のカバンにスッと戻す。

「駅に着いたらそれを使って、タクシーで家に帰って下さい。
家に着いたら必ず自分の研究室に電話をして。
携帯に転送しているので、どこにいても出ますから。必ず約束ですよ。」

一連の流れがスムーズ過ぎて呆気に取られ紗奈は一瞬固まるが、ハッとして
「お金は頂けません。」と慌ててハンカチを取り出そうとする。

その手を要は素早く握り、
「必ず電話を。」と一言告げると、頭を優しくポンと触れてから、さっと紗奈に背を向けて手を振って去っていく。

あまりにも素早い行動で、紗奈は気持ちがついていかず、しばらくその場に立ち止まり、要が去って行った方向を見つめるしかなかった。
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