クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
「ごめんね。丁度良いタイミングで見つけちゃって、このダンボール一緒に運んでくれる?」

「はい。」

中にはビーカーや試験管が入っていて、重くないけど割らない様に気を付けなくちゃいけない。

白石先生はいろいろな染色材料の入った大きなダンボールを抱えて出てきた。

「実験ですか?」

「そう。染色のねー。
配合によっていろいろな色に変わるんだ。
聞くだけの授業じゃ飽きちゃうからね。」

「面白そうですね。私もやってみたいです。」

紗奈はにっこり笑って答える。


「中山さんは、何で要くんのゼミにしたの?」
廊下を歩きながら、不意に白石が聞いてくる。

なぜそんな事を聞くのだろうと、不思議に思いながら紗奈は答える。

「去年、北原先生の作品を見る機会があって
とても感動したんです。」

「感動?設計図を見て?」

「はい。こんな家に父と住めたら寝たきりでも穏やかに暮らせるだろうなって思って。
誰かを幸せにする設計図なんて、なかなかないですよね。」

「『陽だまりの家』だよね。確かに終の住処って感じだったよね。」

「先生もご存知なんですか?」

「要くんの設計プラン、僕も好きだからね。
前に共同設計した事もあったよ。

僕には真似できない発想力でお手上げだったよ。」
助教授にもなる人がそんな事を言うのは意外でびっくりする。

「白石先生でもそんな風に思うんですね。」

「やっぱり才能ってのは生まれ持ってのものってあると思うよ。半分は努力かも知れないけど、要くんは両方持ち合わせてる。

だから、僕は専攻をプランニングよりもテクスチャーに変えたんだよね。」
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