クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
廊下を曲がると30メートルほど先に紗奈の姿を見つける。

この距離を保つべきだと要は心に刻む。

教室の入り口の前で紗奈は止まり、こちらを振り返る。

要はドキッとして足を止める。
紗奈が小走りで要に近付いて来た。

「先生、あの、
このハンカチありがとうございました。」
手元に目を落とすと、両手でハンカチと薄ピンク色の封筒をこちらに差し出している。

「いえ、どう致しまして。」
要は片手でそれを受け取り、ハンカチをポケットに入れて封筒を見る。

「これは?」

「あの、いろいろ考えて、手紙を書いたので、後で読んでください。」
紗奈は小さな声で言ったかと思うと、踵を返して小走りで教室に入ってしまった。

無性に気になり、要は始まりのチャイムが鳴るのも無視して封を開き中をみる。

中には手紙と付箋が何枚か束になって入っている。

おもむろに手紙を開く。

『北原先生へ

いつも気にかけて下さりありがとうございます。
タクシー代も本来ならお返しすべきだと思いましたが、
先生の気持ちを踏み躙るのも嫌なので、
他のかたちで何か、私でもお返しできる事がないかと思い考えました。

お手伝いが必要な時にこのお手伝い券を使ってください。

私なんかが手伝える事は少ないとは思いますが、雑用でも買い出しでも何でも言ってください。
              中山紗奈』
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