クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
紗奈は慌てて化粧を落とし、ドレスを脱いで帰り支度をする。
「すいません。オーナーまた後日伺います。」
神妙な顔で言う紗奈に、
ふふふっとオーナーは優しく笑って、
「ステキな先生じゃない。迷惑料は先生から頂いたし、お店の事は気にしないでいいから。早く行ってあげて。」
背中を押されて店を出る。
「…お待たせしました。」
怖々、要に声をかけ、「ありがとうございました」と借りたスーツのジャケットを返す。
いつもの姿に戻った紗奈に安堵した要は、一足先に到着した前島の車に誘導する。
運転手がすかさず降りてきて、後部座席のドアを開ける。
「乗って。」
有無を言わせない要に一瞬怯むが、
「失礼します。」と小さく言って紗奈は素直に乗り込む。
要は反対側から素早く乗り込み紗奈の隣に座る。
少し前、到着した前島は要に言われた。
「自宅まで送迎をお願いします。
もう1人乗るので少し待って下さい。
今夜、…自分は罪を犯す事になると思います。
この事は他言無用でお願いします。」
その一言で、前島は最重要案件だと理解した。
要の事は小さい頃からよく知っていた。
品行方正を絵に描いたような何一つ大人の手を煩わせることなかった幼少時代から。
要が家を出てからはそう会う事は無くなったが、今でも1番の主人は要だと思っている。
その要が自分を頼って電話をくれた事が前島は嬉しかった。
そしてこれは大事な仕事だと。