クールな准教授は密かに彼女を溺愛する
「では、出発します。」
運転手が言い、車が動き出す。

紗奈はどこに連れて行かれるか心配になる。

すでに夜の10時近く、終電は後少しで終わってしまう。

「ご心配おかけしてすいませんでした。」
紗奈は素直に謝るしか無いと覚悟をして頭を下げる。要からの信頼も何もかも全て無くなったかも知れないが、謝るしかない。


「あなたが、謝る必要はない。」
低く落ち着いた声が逆に怒っているのかと思うほどで、紗奈は泣きそうになって俯く。

「あなたに腹を立てているのでは無く、自分自身に腹が立ってるんです。

少し考えれば分かる事なのに、自分が…俺が、一歩踏み出す事を躊躇したばかりに。

俺の知らない所であなたが耐えていたのかと思うとやるせない。」
要は手のひらで額を抑え苦悩する。

紗奈は慌てて首を横に振る。
「先生が思い悩む事では無いんです。
私が、私の意思で決めた事なので…。
大学に通う為には、先生のゼミに入る為には金銭的にも時間的にも、これしか無いと思ったんです…。」

最後はほとんど呟くほどの声だったけど、要には痛いほど伝わる。

紗奈は涙を堪えるため、片手をぎゅっと膝の上で硬く握りながら俯く。

「俺は、あなたがこれ以上、勝手に誰かに触れられるのを見たくない。」

握りしめていた紗奈の手を要はそっと触れる。ふと、膝から血が出ているのに要は気づき慌てる。
「血が出てる。俺が慌てさせたから。」

要はポケットからハンカチを取り出し、傷口に当てる。

「あっ、いえ、全然気付かなかったです。私がドジだから…。」
さっき慌てて着替えに戻った時、控室に向かう階段で慣れないドレスを踏んでしまい転んだのを思い出す。
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