恋におちたとき
おまけ編

いつも雨が降る

「俺と、結婚してくれませんか?」

 付き合って一年。デートで行ったレストランで、彼にプロポーズをされた。

「はい」

 考えるより先に声が出て、自分の即答っぷりに驚いてしまう。彼も逆に戸惑ったようで、目を瞬かせてから、くすくすと笑い出した。

「すげー、よどみない」
「なによ。返事悩んだ方が良かったの?」
「そんなことない。……ありがとう」

 彼の目が優しく細められて、そこでようやくプロポーズされたんだなって実感した。じわじわと頬が熱くなって、妙に落ち着かなくなる。

 自然にお互いの手が伸びて、指を絡め合う。彼はずっと私を見つめているけれど、私はずっと落ち着かないままだ。耐え切れずに視線を外して彼の背後を見ると、窓ガラスがキラキラと反射していた。

「雨」

 九月の長雨の夜だった──。



 結婚式は、式場の予約や両家の都合等を調整した結果、翌年七月上旬の吉日に決まった。

 二人だけの関係が、ここに至って両家への紹介から始まり、色んな人を巻き込んでの社会的なものとなる。面倒な決めごとや外部からのちゃちゃ入れ、お互いの認識のズレからの大喧嘩。事務的作業。不安と期待。そんなものを乗り越えて、私達は晴れて結婚式の日を迎えた。って、晴れて?

 ホテルの控室、窓ガラスから見える景色に息をつく。曇った空から雨が降っていた。

「失礼します」

 コンコンと扉がノックされて、係の人から呼びかけられる。

「新郎様がいらっしゃってますが、お通ししてもよろしいですか?」

 そう聞かれて、隣に立つスタッフさんを仰ぎ見た。

「お支度は終了しましたので、私達はこれで」
「あ、ありがとうございます」

 にこやかな笑顔のまま去っていかれ、私だけとなった控室に彼が入ってくる。ゆったりとした歩幅。スラリとした手足に、タキシード。私の好きな彼の独特な間合い。

「綺麗だ」

 私が口を開く前に、彼に先に言われてしまった。

「そっちこそ」

 やっぱり背が高いと、フォーマルって映えるんだなぁと、つい見惚れてしまう。

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