カーテン越しの君【完】
先手
「俺、このままずっと歌い続けていたら喉を痛めちゃうし」
「体調面が不安とか、そーゆー問題?」
「…ううん、そうじゃなくて。俺は普通に学校に行きたいだけ」
「だったら、いつも通りでいいじゃない。単位が不安なら、一度学校側に相談してみるから」
セイは仕事を優先として考えている冴木からの提案に、首を一切縦に振らない。
冴木にはデビュー前から世話になっているが、セイは今回ばかりの提案は譲れなかった。
「俺が言ってるのは単位の事じゃないんだ。でもその代わり、年内と年明けの仕事は今まで以上に頑張るから。お願い、約束するから」
「…」
「それに、今年は大雪が降りそうだし」
セイは毎日休み無く仕事のスケジュールが組まれている。
これは、超売れっ子が故の悩み。
仕事と学校の往復が続いているセイだが、紗南と再会するチャンスを掴む為に、この先のスケジュールが埋まりきる前に先手を打った。
まだ、今年は大雪が降るかどうかも、わからないのに…。
いつも隣で見守っている冴木は、プライベートを捨て、ただひたすら歌手として人生を駆け抜けているセイの気持ちを汲み取り、諦め半分で事務所に連絡を入れた。