【書籍化に伴い冒頭のみ公開】クールな御曹司の溺愛ペット
「久しぶりだな」
低く胸に響くような声音。
一成さんはほんの少しだけ目元を緩ませ、ソファに座るように促す。
「し、失礼しま……きゃっ!」
あまりの緊張に足下が絨毯に引っ掛かり、想定外にバランスを崩してしまう。前のめりになった私の腕を絡みとるように、一成さんが慌てて体勢を立て直してくれる。
「大丈夫か?」
「す、すみません」
と、顔を上げた瞬間一成さんとの距離があまりにも近くて一気に体温が上昇した。
私は顔を真っ赤にしながらズササっと距離を取る。
「もっ、申し訳ありませんっ」
とんだ失態だ。
初っ端から何をしているんだ、私は。
バクンバクンと心臓が壊れそうになり、鼻の奥がツンとしてくる。
ああ、本当に、自分が嫌になる。こんなことでいちいち動揺してしまうなんて。
一成さんにフラれて、何年もかけてその想いを絶ち切ったと思っていたのに。たったこれだけのことでときめきが舞い戻ってくるなんて我ながら単純すぎる。
落ち着け私、落ち着け私。
私は一成さんにフラれた身なのよ。
ていうか、これは仕事なんだから。
などと心の葛藤を繰り返していると、クックと小さく笑う気配に少しだけ顔を上げる。
「本当に、相変わらずだな千咲は。初めて会った時のことを思い出すよ。あのときも顔を真っ赤にしていたな」
ぐっ。
過去を思い出さないでほしい。
初めて会ったときは緊張したのと、一成さんのあまりのかっこよさにドキドキしていたのだ。
い、今も大人の魅力にあてられているけど。