恋がはじまる日
「佐藤みたいな女の子」
「え?」
一瞬、なんの音もなくなって、世界には二人だけかのような静寂がおとずれた気がした。昼休みの喧騒とか、風の音とか、何もかも聞こえなくなってただただ静寂が二人を包む。
私?私みたいな女の子が好き?藤宮くんは私みたいな子が好き?
頬が一気に熱くなるのを感じる。
「まぁ冗談、だけ、ど…」
赤くなった顔を見られたくなくて、私は手で少し顔を隠すように下を向いた。
「な、なぁんだ冗談かぁ!藤宮くんはすぐそうやってからかうんだから!そりゃそうだよね!私みたいなそそっかしくてドジな子なんて、男の子は好きじゃないよね」
いつもみたいにからかわれただけ。冗談だってわかってるのに、こんなにドキドキして恥ずかしい。もし藤宮くんが私みたいな女の子を好きだったら。もしかしたら藤宮くんも、私のこと少しは気にかけてくれているんじゃないか、なんて。私と藤宮くんが同じ気持ちなわけないのに。
「佐藤、」
「さ!そろそろ教室戻ろっか」
恥ずかしい。一瞬でも藤宮くんも私のこと好いてくれてるんじゃないかなんて、勘違いするところだった。
「佐藤」
もう一度名前を呼ばれて、腕を掴まれた。
真っ赤になって恥ずかしい顔を隠していた手をどけられて、私と藤宮くんは真正面から見つめ合う形になってしまった。
「佐藤、お前さ、」
「え、ええと、」
恥ずかしくて私は慌てて顔を背ける。
「ごめん、先に教室戻るね」
私はいてもたってもいられず、藤宮くんに背を向けた。
何を言いかけたんだろう。
それを聞き返す勇気はなかった。
ああもう、藤宮くんは私のことからかってるだけだってわかってるのに、きっと私のことなんてなんとも思ってないのに、どうしてもドキドキしてしまう。恥ずかしい。私だけがずっと意識してる。
もうだめだ、溢れてしまいそうだ。この胸のうちをすべてさらけ出してしまいたい。
藤宮くんが好き、どうしようもなく好き。
この気持ちを伝えたら、少しは女の子として、意識してくれますか?