恋がはじまる日
「俺、美音のことが好きなんだ」
「え?」
真剣に言うから何かと思ったら。私は少しこわばっていた肩をゆるめた。
「何を言われるのかと思った!私も椿のこと好きだよ、幼なじみなんだから、当たり前でしょ」
そこまで言い終わるか終わらないかのうちに、椿は食い気味で言葉を付け足す。
「そうじゃなくて!幼なじみとか親友としてとかじゃなくて、俺は、」
そこで少し言葉を切って、真剣に私の瞳を見た。
「一人の女の子として、美音が好きなんだ。もうずっと前から、幼なじみとしてだけなんて見られてない。美音が好きだ、俺の彼女になってほしい」
そこまではっきりと言われて、さすがの私にも椿の気持ちが理解できないはずもなく。
椿が私のことを好き。女の子として…。
目の前の椿からはいつものお調子者な感じは全くなくて、ああ、本当の気持ちなんだ。と痛いくらいに伝わってきた。真剣な表情、揺れる瞳が熱を帯びている気がして、私は息をのむ。
小さい頃からずっと一緒だった私達。楽しい時も辛い時も、誰より長い時間を一緒に過ごしてきた幼なじみ。私が勉強や部活でくじけそうになった時も、いつもそばで支えてくれていた大切な友達。椿がそばにいるだけで、すごく安心できた。
三浦 椿は、私の心を支えてくれた人。
私も椿が好き。
けれど。
けれどそれは、恋愛感情とは違う。
椿は瞬きもせずに、私を見つめている。
上手く言葉が出てこない。でも、私もしっかり伝えなきゃ。真摯に向き合ってくれた彼に、私の今の気持ちをちゃんと伝えたい。
「ありがとう、椿」
口の中が渇いて仕方がない。私はこくっとつばを飲み込み、一つ一つゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「気持ちはすっごく嬉しい。でも、ごめんなさい」
私は気が付いてしまったんだ、自分の気持ちに。
「私、好きな人がいるの」
私は、藤宮くんが好き。
無愛想で、言葉はちょっときついけど、優しくていつも私を助けてくれた。そんな藤宮くんに、私はいつしか惹かれてしまった。