恋がはじまる日
「美音はさ、その好きな奴に告白すんの?」
「え!えっと、」
思っているだけ、遠くで見ているだけは嫌だと思った。私は…。
「じゃあ、まだ俺にもチャンスあるかなー」
椿はそう言うと、いつもの元気な笑顔を見せた。もちろん頑張って笑ってくれているのだろう。
「俺、美音のことずっと好きだろうし、やっぱそう簡単にあきらめらんねえし。だから、」
そこで言葉を切った椿は、切なそうに笑う。
「だから、美音の恋は応援できないと思う」
そう頑張って笑おうとする椿に、更に胸が苦しくなる。
「うん、うん…」
私はただうなずくことしかできなかった。そんな私に、椿はいつものように接してくれる。
「ほら、泣くなよー」
私の頭をわしゃわしゃと撫でる手から、彼の優しさが伝わってくる。
ありがとう、ありがとう、椿。
私はこの恋を頑張るって決めたよ。思っているだけじゃなにも変わらないよね。私も、私もちゃんと伝えなきゃ。
そこでいきなり、ガラっと音がして、教室の後ろの扉が開いた。
振り返った私と、教室に入ってきた人物との視線が合う。
「藤宮く、…」
その言葉は途中で切れ、気が付けば私は藤宮くんに手を引かれ、教室を飛び出していた。