恋がはじまる日
ようやく口を開いた藤宮くんが発したのは、そんな一言だった。
「分かってたのに、いつかはこうなるってこと。覚悟もしてたはずなのに、やっぱり無理だろ」
藤宮くんがなんの話をしているのか全く分からない。私はさらに混乱してしまう。
「藤宮くん、なんの話を、」
「悪かったな、邪魔して」
え?
「三浦と付き合うことになったんだろ。ずっと両想いだったもんな」
「え?」
「…付き合うなよ」
「え…?」
藤宮くん、今なんて言った?
彼は自分で言ったことに自分で驚いたように、口をつぐんだ。
「なんでもない。忘れろ。邪魔して悪かった、それじゃあ」
握られていた手はすっと離され、突き放されたように感じた。
その場をさっさと立ち去ろうとする彼の後ろ姿が寂しそうに見えた、気がする。
待って、違うよ、藤宮くん。誤解してるよ。行かないで。私は、私がずっと好きなのは。
「待って!藤宮くん!」
思わず呼び止めた私の大声にびっくりしたのか、反射的に振り返る藤宮くん。
その眼前に、大切に用意したチョコブラウニーの包みを差し出した。