恋がはじまる日

「は?」


 藤宮くんは目を丸くして、私の手の中のチョコを見つめた。その表情は見る見るうちに不快そうにゆがんでいく。


「お前、何考えてんだ?」


 もともと目つきがよくない藤宮くんににらまれて、私は少したじろいだ。それでも、私は負けじと言葉を紡ぐ。


「藤宮くんに、バレンタインのチョコ渡したくて!」


「だから、どうして三浦がいるのにほかの男にチョコ渡したりするんだよ」


「違うよ、椿は幼なじみで、」


「じゃあさっき教室で何話してたんだ?」


「それは、」


「三浦に告白されたんだろ」


「!」


「気が付かないわけないだろ、もう一年近くもお前らと一緒にいるんだから」


 藤宮くんは、椿が私のことを好きだって気付いてたんだ。


「そっか」


 再び踵を返そうとする藤宮くんに、私はぽつりと言った。


「椿の気持ちはすごく嬉しかった。でも、断ったんだ」


 藤宮くんは驚いて目を見張る。


「は?佐藤だって三浦が好きだっただろ、どうして、」


「うん、もちろん好きだよ。でも、それは恋愛感情じゃないよ。私、他に好きな人がいるから」


 そうきっぱりと言い切った。


 伝えよう、ちゃんと。言葉にして、口に出さないと、気持ちなんていつまでたっても伝わらないよ。


 誤解を解かなきゃ、今伝えるんだ。


 私は大きく深呼吸をして一歩踏み出すと、彼をまっすぐに見つめる。


「私の好きな人は、藤宮くんだよ」


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