恋がはじまる日
少しして、私達は夕焼けの中、並んで一緒に下校した。
心臓はまだ落ち着かないけれど、それでも温かで優しい充足感で満ちていた。
緊張しすぎて、何を話したらいいのか分からなくて私達はしばらく無言で歩き続けた。
住宅街の小さな公園に通りかかった時、「す、少し寄っていかない?」と声を掛けてみた。藤宮くんはうなずくと、自販機でココアを二つ買って、一つを私に差し出してくれた。
「あ、ありがとう。あのお金、」
「いい」
ときっぱり断られてしまった。
私達は手近なベンチに腰を下ろすと、ぽつぽつと話し始める。
気持ちを伝え合ったばかりでまだ全然落ち着かない。せっかくだからおしゃべりしたいのに。
「あの、聞いてもいい?」
「なんだ?」
さっき廊下では藤宮くんもドキドキしてたと思うんだけど、あっという間にいつもの見慣れた彼に戻ってしまっていた。両想いだなんて、私の妄想だった?聞き間違いとかじゃないよね?
そう少し不安に思いながらも、私は質問する。
「さっき言ってた、あの冬の日って…?」
私の質問に少し照れくさそうに表情をゆがめる藤宮くん。
ああ、やっぱり私のこと好きだと思ってくれてるんだ。そう実感してしまう。藤宮くんの見たことない表情ばかりだ。クールそうに見えて、結構色んな顔するんだなぁ。