恋がはじまる日

 すっかり日も落ち、空には星々が輝き始めている。


「お待たせー!」


 私が帰り支度を終えて昇降口に行くと、椿はもう待っていた。


「おーお疲れ」

 時計を見るとすでに六時半を回っていた。


「ごめんね!大分待たせちゃったね、帰ろっか」

「おう」


 帰路につきながらお互いの部活動のことなどを話しながら歩く。しかしどうにも椿が上の空のような気がしてならない。私の話に対して、ああ、とか、うんとか、なんだか返事適当じゃない?疲れてるのかな?


「椿、どうかした?」

「えっ」

「なにか考え事してる?さっきから上の空って感じ」

「あー、ごめん」

「なにかあるなら言って、今更遠慮する仲でもないでしょ?」


 彼が何を迷っているのかは分からないけれど、そう私は力強く促してみた。


「えっと、美音に聞きたいんだけど、」

 椿はおずおずとそう切り出す。


「うん?」

 彼は一瞬の逡巡ののち、意を決したようにこう尋ねた。


「あのさ、さっき校庭で話してた人って、サッカー部の人だよな」

 さっき?椿に手を振った時かな。

「うん、菅原先輩かな?サッカー部の部長さんだよ」

「仲良いの?」

「え、普通だと思うよ。部長とマネージャーだから、よく部活のことで話しはするけど。菅原先輩がどうかした?」

 そう尋ね返すと彼は慌てて目を逸らした。
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