恋がはじまる日

「な、なんでもない!……そっか、よかった…」

「?」


 椿が何に興味を持っていたのかいまいち分からなかったけれど、なんとなく落ち着きがないように感じた。


「今日だって、いつだって、俺が美音の傍にいるんだ、気にすることないよな」

「ん?」

「え!いや、それじゃあまた明日!」


 気が付けばすでにうちの前まで帰って来ていて、椿はそそくさと隣の家へと入って行った。


「あ、うん、また」


 なんだか様子が変じゃなかったかな?明日また聞けばいっか、とさして気にせず私も家に入ることにする。


 ふと空を見上げると、雲一つなくたくさんの星が瞬いていた。


 新学期早々色んなことがあったなぁなんてことを思って、真っ先に思い浮かんだのは、転入生の藤宮くんの顔だった。
黙っていればかっこいいのだけど、ちょっと苦手なタイプかも。女の子達も結構話し掛けていたみたいだけど、すごい塩対応だったし。ぶつかったこと、まだ怒ってるのかなぁ。ちょっと気まずいな、これからずっと隣の席なんだよね…。


「はぁ…」

 浅くため息をついて、空を見上げる。もうすぐまんまるの月は、春の夜闇を明るく照らしていた。


 考えても仕方がない!とにかく穏やかに、何事もなく楽しく過ごせますように!


 そうお月様に強くお願いした。


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