恋がはじまる日
寝てる、のかな?しゃべらなければかっこいいんだよなぁ、おお、睫毛長い。
そんなことを思いながら見ていると、閉じていた彼の瞳がぱっと開いた。突然腕をぐいっと引き寄せられ、唇が触れそうな至近距離でばっちりと目が合った。
「何?」
彼は全く視線を動かすことなく、平然としている。
近い…!
急な接近に心臓が慌ただしく音を立てる。私は慌てて藤宮くんから距離をとった。
「ご、ごめんなさい!あの、勘違いでした!お昼寝かなとも思ったんだけど、全く動かないから体調悪かったりしたら困るし、それでちょっと様子見を!」
ああ、やっぱり気にするんじゃなかったかも。
早口でそう説明すると彼は起き上がって、自分の膝を指差した。彼の動作をそのまま目で追い、藤宮くんの膝の上を見ると、猫が気持ち良さそうに丸まっていた。
「みーちゃん?」
三毛猫のみーちゃんは、この学校に住み着いている猫である。自然に囲まれたこの学校には、野良猫が多く住み着いていた。皆各々勝手に名前を付けて呼んでいる。私はみーちゃん呼び派だ。
「こいつが俺の膝から一向にどこうとしないから、仕方なく貸してやってた」
「そ、そうだったんだ…」
そっか、やっぱり具合が悪いわけじゃなかった。ああ、おせっかいだったよね。
そう反省しながら藤宮くんの方をちらりと見やると、彼が少し笑ったように見えた。