恋がはじまる日
「お前、相変わらずそそっかしいな」
「相変わらず…?この前のこと?あれは本当にごめんなさい!あとお前じゃなくて、佐藤美音です!」
せっかくの話す機会なので、もう一度謝ってみた。ていうか、さっき藤宮くん笑ったよね?藤宮くん笑うんだ。もう怒ってない?私のこと嫌いなわけじゃない?
私は少し嬉しくなる。
「で、お前はこんなところで何してるんだ?」
またお前呼び…。
「花壇に水をあげてたところだよ」
「今日は彼氏と一緒じゃないのか?」
「彼氏?」
藤宮くんが何を言っているのか分からなくて、素っ頓狂な声を出してしまった。当然のことながら初恋すらまだの私に、彼氏などいるはずもないし、いたこともない。
私が首を傾げていると、藤宮くんは面倒くさそうに言った。
「いつも一緒にいるだろ、過保護な幼なじみ」
「あ!ちがっ!椿はただの幼なじみだよ!彼氏なんかじゃ…」
私が慌てふためいているのを、少しからかったような目で見てくる藤宮くん。
「付き合ってないんだ?」
「付き合ってないよ!」
「ふーん、あっそ」
そう言いながら猫を抱き上げると、膝からゆっくりと降ろした。
「それじゃ」
「え、え?」
興味がなくなったのか、いやきっともとからそんなものなかったと思うけれど、私との会話が面倒になったのか、彼は伸びをするとさっさと行ってしまった。