恋がはじまる日
「ね、椿、今日時間あるかな?」
彼は振り向きつつ、
「あるある!めっちゃ暇!部活ないし、することないよなー」
と満面の笑顔で答えてくれる。試験勉強なんてまるでしません、と堂々と宣言しているようなものだった。
椿にもちゃんと勉強させるいいチャンスでもあるな!と思い、私は先程思いついた提案を彼にしてみる。
「この後よかったら一緒に勉強しない?数学が少し不安で、面倒でなければ教えてもらいたいなって。椿、数学得意だったよね?」
そう尋ねると、椿は嬉しそうに、
「おう!数学超得意!全然いいよ、教える教える!」
と快く頷いてくれた。
「ありがとう!助かるよ~」
そう言いつつ手を合わせて感謝の気持ちを伝える。
「どこで勉強しよっか?図書室とか、うちとか?」
「うーん、図書室はテスト前で混んでると思うし、久々に美音の家にしようかな」
「いいよ、あ、でも今日お母さんもお父さんも帰りが遅いから、家にお菓子とかないかも」
「そっか、じゃあその辺で買って帰ろうぜ」
「わかった、そうしよ!」
そこまで話し終えたところで、私はようやく藤宮くんがずっとこちらを見ていたことに気が付いた。頬杖をつきながら、何故か呆れたような表情をしている。
え、あれ、いつからこっちを見ていたんだろう?
あまりの気まずさにしどろもどろになりながら尋ねる。
「えっと…どうしたの、藤宮くん?」
うるさかったかな、またなにか不機嫌な気持ちにさせるようなことしちゃったのかな、と少し不安になる。彼の表情からは、何を思っているのか全く分からなかった。もう一度尋ねようと口を開きかけると、先に口を開いたのは藤宮くんの方だった。