恋がはじまる日
「数学なら、俺も得意だけど」
「え?」
「こいつより数学できると思う。俺が教えようか?」
突然そんなことを言われ、あまりの驚きにしばしぽかんとしてしまった。
え、藤宮くんが私に数学を教えてくれるの?教えるなんて真っ先に面倒くさがりそうな気がしたんだけど。そもそも人と関わるのすら面倒そう。一人が好き、ってイメージだったのだけど。藤宮くんが私に数学を教えてくれるなんて、どんな心境の変化なのだろうか。
本当に何を考えているのか全く分からない…。
私の思考が鈍っている間に、椿がちょっとむっとしたような声で返答していた。
「美音には俺が教えるからいいんだよ、藤宮も自分の勉強あるだろ」
それに対して藤宮くんもぼそっと言い返す。
「また幼なじみの過保護か。過保護通り越してただの独占欲だけどな」
「はぁ!?」
そこではっとした私は、二人がヒートアップする前に慌てて口を挟んだ。
「せ、せっかく教えてくれるって言ってくれてるんだし、藤宮くんからも教わろうかなぁ!三人で勉強した方が、色々教え合いっこできそうだし!ね、椿?」
「まあ、そうだけど…」
「じゃあ、決まり!三人で一緒に勉強しよう!」
そう強引に話をまとめた。
藤宮くんは相変わらずなにを考えているのか分からないけれど、せっかく同じクラスでお隣の席なのだから、仲良くなれた方がもちろん私は嬉しい。未だにどんな人か分からないけれど、悪い人ではないと思うし。この機会に少しでもお話できたらいいな。
椿はすごく不服そうな顔をしていたけれど、渋々三人での勉強会に頷いてくれたのだった。