恋がはじまる日

「はい、美音のミルクティー」

「ありがとう!いくらだった?」

「いいよ、それくらい、奢り!」

「え、ありがとう!今度は私が奢るね!」

「おう!」

 そう言うが早いか「いただきます!」と手を合わせて早速パスタを食べ始める椿。


 私達の様子をコーヒーを飲みながら眺めていた藤宮くんは、チーズケーキにフォークを差し入れ一口分をすくった。そのフォークが流れるように私の目の前に差し出される。


「はい」



「え?」

 私が食べやすいようにか、小さく一口分にすくわれたチーズケーキが、私の口元に差し出されていた。


 え?え?くれるってこと?

 彼の突然の行動に戸惑いが隠せるわけもなく、心臓が一度大きく跳ねる。


 藤宮くんってこういうことする人なの?女の子とのシェアにもあまり抵抗がない人?


「いらないのか?食べたそうにポスター見てたと思ったけど」


 あ、入口で私がポスターを見ていたから?

「え、えっと……」


 せっかく一口くれようとしているのに、お断りしたら嫌な気持ちになっちゃうかな?で、でも、フォークに口つけちゃうけどいいのかな、だってその、間接…。


 悶々と考えている私を見て、藤宮くんは意地悪そうに笑った。


「ま、冗談だけど」

 そう言って私に差し出してくれていたケーキを自らの口へと運び、ぱくっと食べてしまう。


「え!?」

「なに?本当に貰えると思った?」

 楽しそうに笑う藤宮くんを見て、ようやく気が付いた。


 私、からかわれた…?


「もう!冗談かぁ!びっくりしたよ」

 そう怒ったふりをしながらも、内心何が起きたのか分からず、慌ててミルクティーを喉に流し込む。


 なんだったの今の?藤宮くん、人をからかったりするんだ?びっくりしたー。


 びっくりしすぎて、動機が治まるまでにしばらく時間がかかった。

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