恋がはじまる日
夏
相合傘
六月に入り、雨の日が多くなっていた。今日も午後から急にどんよりとした天気になり、大粒の雨が降っている。
外で行われるはずだった体育の授業は急遽体育館に変更となり、目の前では男子のバスケットボールの試合が始まるところである。
男子が試合をしている間、女子は試合の応援をしたり、各自練習をしていたりと、自由な時間を過ごしていた。
私は友人の桜ちゃんと、今年初めて同じクラスになってお友達になった雪乃ちゃんと、男子の試合を見学することにした。
「がんばれー!」と男子を応援する桜ちゃんの横で、クールな雪乃ちゃんは試合を冷静に見ている。私も特に声を出して応援するでもなく、ただなんとはなしにコートを眺めていた。
「あ、美音ちゃん、三浦くん試合出るよ!」
「ほんとだ」
椿がやる気十分と言った様子でビブスを着用する。その横で心底面倒そうに仕方なくビブスを付ける藤宮くんの姿が目に入った。
藤宮くん、体育苦手なのかな?
椿と藤宮くんはどうやら同じチームのようだ。
ピピーっと体育館中にホイッスルが鳴り響いて、男子の試合が始まった。
椿は相変わらずどんなスポーツでも得意なようで、ドリブルしながらコート中を駆け回っている。
「美音ちゃん、三浦くん応援してあげなよ!」
「え?」
「幼なじみなんでしょ?」
「う、うん」
他の女子も応援してるし、私の応援なんているかなぁ?と思いつつも、桜ちゃんがとんっと私の背中を押して促すものだから、ちょっと恥ずかしかったけど声を掛けてみることにした。
「つばきー!がんばれー!」
そこまで大きな声ではなかったと思うのだけど、椿は一瞬ピタリと動きを止めて、それから猛スピードで相手ゴールまで駆けていった。ひょいっと投げ入れたボールは綺麗にゴールネットに入った。
椿はチームの男子達とハイタッチしながら、嬉しそうにしている。
「美音の応援のおかげでしょ、今のは」
なんて雪乃ちゃんまで言うものだから、なんだかやたらと照れくさかった。桜ちゃんもにこにこしている。
それからも椿の快進撃は続いていたけれど、さすがに敵チームも椿をマークしているようで身動きが取りづらそうだ。椿は観念したように、味方にパスを出す。そのボールの先は藤宮くんだった。ボールを受け取った藤宮くんは颯爽とコートを駆けていき、あっという間にボールはゴールネットに吸い込まれていた。
ひと際大きな女子の歓声が体育館に響く。
私も気付けば、「おおー!」と手を叩いていた。