恋がはじまる日

 ドンっ!


「きゃっ!?」


 あっ、と思っている間に、私の身体はバランスを崩していた。

 曲がり角から出てきた人に気付かず、ぶつかってしまったのだ。

 お尻への衝撃に覚悟を決め、目をつむった…けれど、その衝撃はいつまで経ってもやってくることはなかった。

 あれ?

 恐る恐る目を開けると、眼前の男性と目が合った。切れ長な目が少しきつく感じるけれど、目鼻立ちが整っていて、かっこいい人だなぁという印象を受けた。

 少しの間見惚れていた私は、はっとして自分のおかれている状況を確認した。


「!?」


 私はその男性に腰を抱き寄せられ、抱きしめられる形になっていた。


 私が慌てふためいていると、男性は私の顔を見て驚いたように目を見開いていた。のだが、それも見間違いだったのかと思うくらいに一瞬で、すぐさま無表情へと戻る。
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