恋がはじまる日

 あれから三十分。
 土砂降りの雨は一向に止む気配がない。どころか更に雨足が強くなってきているような。

 うーんどうしよう。このまま止まないのかなぁ。それだったらさっさと帰っちゃった方がいいよね、いつ帰ってもどうせ濡れるんだし。

 靴箱の前で、帰るべきか様子を見るべきか、尚もうーんとうなっていると、一際眩しい光が視界を覆った。続いて大きな地響きのような音が鼓膜を鳴らす。


「ひゃっ!」


 ドーン!と鼓膜がびりびりするような大きな音だった。雷が近くに落ちたのかもしれない。音に驚いたせいか、鼓動が少し早くなった。

 びっくりしたぁ。すごい音だったぁ。


「何してんだ?」

「わあ!」


 急に声を掛けられて、私の心臓はまたも飛び上がった。

 あまりに近くから声が聞こえて振り返ってみると、そこには大きな傘を持った藤宮くんの姿があった。


「びっくりしたー、なんだ藤宮くんかぁ」


 立て続けにびっくりして、心臓がうるさいくらいにばくばくいっている。

 彼は少しむっとしたような顔をしていたけれど、それよりなにより私は彼の手に握られている大きな傘を凝視してしまう。藤宮くんがその視線に気付く。


「なんだ、傘ないのか?」

「う、うん」


 私はおずおずと頷く。思わず彼の表情を窺ってしまう。

 もしかして、傘に入れてくれたり…。さっきノートを拾ってくれた彼なら、もしかしたら傘に入れてくれるかもしれない?と淡い期待を抱いてしまう。
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