恋がはじまる日
藤宮くんが席に着いたところだった。
「お、おはよう!」
いつもより気持ち明るめに声を掛けると、「ああ」と返事があった。
「えっと、昨日はありがとね!」
そうお礼を言うと、「別に」とこれまた相変わらず素っ気ない言葉だけが返ってきた。
昨日は藤宮くんのおかげで濡れずに帰れたのだ。素直じゃないだけで、優しい人なんだよね。人は話してみないと分からないものだ、なんてことを改めて思っていると、黙って私達の様子を見ていた椿が訝しげに聞いてくる。
「昨日って何かあったの?美音、先輩と帰ったんじゃなかったっけ?」
「そのことなんだけど、」
私が椿に昨日の帰りのことを話そうとすると、それを遮るように藤宮くんが口を挟む。
「幼なじみかなにか知らないけど、お前干渉しすぎ。そんなにこいつが気になんの?」
「「!!」」
私達二人は驚いて藤宮くんを見た。
椿が慌てたように少し早口で返答する。
「べ、別に全然気になんねぇし!ただ美音のお母さんから、美音のこと任されてるだけ。危ない目にあったら困るだろ」
え、そうだったんだ。お母さん仕事で遅いことが多いから、心配で椿に頼んでたのかな。聞いたことなかった。
椿の話にほーと驚いていると、藤宮くんは相変わらず馬鹿にしたように「ふーん、そ」と言って笑った。
あれ、昨日の優しかった藤宮くんはどこへ?
ちょっと彼のことを知れたと思って嬉しくなっていたのだけれど。
やはりこの人は、何を考えているのかさっぱり分からない。