恋がはじまる日
気が付くと部屋のドアが少し開いており、そこには、
「兄さん、いちゃつくならドアくらい閉めたら?」
「梓!」
「梓くん!」
そこには椿の弟である、中学三年生の梓くんが立っていた。眼鏡をくいっとあげて、呆れたように浅くため息をついた。中学生とは思えないほど落ち着いた雰囲気をまとっている。
椿は慌てたように私の手を離した。
「か、帰ってきてるなら言えよ!」
「声を掛けられるような雰囲気じゃなさそうだったから、温かく見守ってたんだよ。
美音さん久しぶり、ご飯食べてくでしょ?」
「あ、うん!ありがとう!」
梓くんがにこりと微笑む。
「美音さん、兄さんなんかでいいの?俺の方が、」
「あーあー!!もういいから出てけ!」
梓くんが言いかけていた言葉を遮り、椿は彼を部屋から追い出すと思い切りドアを閉めた。
「はあ、ほんと油断できねぇ…」
「梓くん大きくなったね!相変わらず元気そうでよかった!それより、椿。さっき言いかけてたことって?」
梓くんの登場で話が途中になってしまった。何かを真剣に伝えようとしてくれていたと思うのだけど。
話の続きが気になり先を促してみたのだが、椿は「いや、えっと、その話はまた今度…」と言って、ベッドに倒れこんでしまった。
「椿、大丈夫?」
「ごめん、今日はもう無理…」
「???」
やはり最近の椿は様子がおかしい…?