恋がはじまる日
しかし藤宮くんは一瞬考えたようだったけれど首を横に振った。
「今日バイトあるから」
「そっか」
「それじゃ」
「あ、うん!また講義で」
返事は期待していなかったけれど、バイトがあるなら仕方がないよね。少し残念に思っている自分がいる気がしたけれど、こればかりは無理も言えない。
藤宮くんバイトしてるんだ。どんなバイトしてるんだろう。あの不愛想加減で、きっと接客はないよね。
などと少し失礼なことを考えていると、椿が私の顔を覗き込んで不服そうに言う。
「なんで藤宮まで誘うんだよ。俺と二人じゃ不満?」
「いや!そういう訳じゃないよ!」
椿が少々ご立腹そうなので、私は慌てて答える。
ん?二人?
「え、今日のお祭り、行けるの私と椿だけなの?」
毎年近所のお祭りへは、私と椿、小学生からの友達数人で集まって行っていた。今年はみんな予定が合わなかったのだろうか。
「あーうん、いつものメンバーに声掛けてみたんだけど、みんな部活とかバイトとか忙しいみたいでさ。今年は俺と美音だけになっちゃたんだけど、嫌だった?」
「ううん!嫌なわけないよ。そっか。みんな忙しいよね。もう高校生だし。会えないのはちょっと残念」
友達同士ではなく、恋人と一緒に行く人もいるだろうしなぁ。
私が少ししょんぼりしていると、私を元気づけようと椿は明るく言う。
「また来年みんなで行こうぜ!今年は二人で目一杯楽しも!」
「うん!そうだね!」
椿からはたくさんの元気をもらってるなぁ、と常々感じる。
気を取り直して、私達は制服から私服に着替えるため一度帰宅することにした。