恋がはじまる日

 とある生徒との不運な事故の後。
 少し駆け足で来たおかげか、なんとか遅刻せずに学校へ到着することができた。

 間に合ってよかったぁ。

 ほっと胸を撫でおろしつつも、せっかくの新学期だというのに、なんとなく気は晴れない。理由は分かっているのだけどね!
昇降口を入ってすぐ、クラス名簿の張り出された掲示板で自分の新クラスを確認し、今年お世話になる二年Ⅾ組の教室へと向かう。
 にぎやかに談笑する新クラスへと足を踏み入れると、みな新クラスに浮足立っているようなそわそわとした空気を感じた。

 ここが今年お世話になる新しいクラス!知ってる子も結構いそう!

 なんて思っていると、ちょうど顔なじみの女の子が駆け寄ってきた。


「美音ちゃん!」

「桜ちゃん!」


 私達は手を取り合って喜び合う。


「今年は同じクラスだ!」


 右前髪を大きなシロクマのヘアピンでとめる彼女は、結城桜(ゆうき さくら)ちゃん。一年生の頃に図書委員会の当番で仲良くなった子だ。去年はクラスが別で合同授業などもなかったから、一緒のクラスになれてとても嬉しい。

 私達はひとしきり喜びあった後、自分たちの座席を確認して、各々の席へと向かう。

 私の席は窓際の一番後ろの席だった。

 窓からは暖かな日差しと、心地よい風が入ってくる。カーテンがふんわりとはためく。

 最高の席では!

 クラス替えによる多少の不安も消え、明るい気持ちになっていたのも束の間、ふと今朝の登校中の出来事が思い出された。私は再びなんとも言えないもやもやとした気持ちになる。
 
 本当、なんなのあの人、そりゃあぶつかった私が悪いとは思うけど。それにしたってあの態度はひどくないかな。助けてくれたのかと思ったのに…。これが少女漫画だったらなぁ~、なんて、また少女漫画脳なことを思ってしまうのは、さすがに恋に恋しすぎなのかな。

 …うーん、でもあの人、どこかで見たことがあるような気がするんだよね。気のせいかな。割とかっこよかったし、以前に会っていれば覚えていそうなものだけれど。同じ学校だし廊下で擦れ違ったことがあるのかもしれない。

 そんなことを悶々と考えながらひたすらに一人で唸っていると、前の席の椅子を引く音がして、私は顔を上げた。

 ひょいっと顔を覗き込むように、一人の男子生徒が私に声を掛けてきた。
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