恋がはじまる日
夏祭りの行われている神社はうちから歩いて十五分ほど行った、少しなだらかな坂の上にあった。周辺は木々で覆われており、ヒグラシがたくさん鳴いていた。
神社へと近付くにつれ、人が増えてきたように思う。
久々の浴衣に下駄なので、転ばないように気を付けながらゆっくりと歩く。
階段を上り、目的地である神社の境内へと入る。
境内は、お祭りにやって来た人で溢れかえっていた。地元のお祭りとはいえ、花火も打ち上がるため、近年は余所から来ている人も多いらしい。
「すごい人だなぁ」
「そうだね、どこから見てまわる?」
そう椿に問いかけると、椿は私に手を差し伸べてきた。
「人多いし、はぐれたら困るから、手繋ぐ?」
「え…?」
私は椿の手をとって歩いている自分を想像して、何故だかものすごく恥ずかしくなった。
そういえば小さい頃、私が迷子にならないようにといつも手を繋いでくれていたっけ。椿はまだ私のこと、小さい頃と同じだと思っているのだろうか。
「あ、ありがとう!でも大丈夫だよ!もう高校生だし、迷子になんてならないよ」
「そっか…だよな、ごめん」
椿は少し恥じ入るように顔を背けた。
それから私達は、ずらりと並ぶ屋台を見て回ることにした。花火の打ち上げ時刻まではまだ少し時間がありそうだ。
地域の小さなお祭りとはいえ、なかなかの出店の数だ。町おこしもあるのか、どの屋台も気合いが入っている。ああ、そこかしこからお腹の空く匂いが漂ってくる。
焼きそばにチョコバナナ、じゃがバターに焼きとうもろこし、綿あめも美味しそうだし、たこ焼きも食べたい!りんご飴もあるー!食べなきゃ!
射的や金魚すくい、輪投げなど、もちろん遊べる出店もあって目移りしてしまう。
「椿、何買う?」
そう振り返りながら声を掛ける。
がしかし、さっきほどまで近くにいたはずの椿の姿が忽然と消えていた。
「あれ?椿?どこ?」
辺りを見渡すが、椿の姿は見当たらない。
私は一気に血の気が引いた。