恋がはじまる日

「ま、まさか、はぐれた?」

 しばらくきょろきょろと辺りを探してみるが、彼の姿らしい人影はなかった。
 この人混みだ、見つけるのはかなり難しいだろう。

 ど、どうしよう!はぐれちゃった!この歳で迷子なんて!さっき意地を張って手を繋がなくて大丈夫だなんて言って、この有り様!恥ずかしすぎる!


 動転する気を落ち着けながら、どうすべきか考える。


 そうだ、スマホ!連絡してみよう!と、巾着の中からスマホを取り出す。


 人が多いせいなのか、電波がよくないせいなのか、電話はつながらず、何度かエラーになったけれど、ようやく椿にメッセージを送ることができた。


『椿 今どの辺にいる?ごめん、はぐれちゃったみたい』


 そうメッセージを送って、なにか目印になるところで待っていようとまた辺りを見回す。
 一際目立つパッションカラーのチョコバナナ屋さんの幟を見つけた。


 あの屋台の近くで待っていよう!


 そう思い移動しようとしたところで、

「わっ」

 擦れ違う人にぶつかってしまう。

「ご、ごめんなさい」


 ますます人が多くなってきたようだ。
 この人混みで無事合流できるのだろうか。漠然とした不安が急に襲ってくる。


 どうしよう。浴衣で動きづらい。早く人の少ないところに移動したいのに。


 そうもたもたしているうちにも、人はどんどん増え、身動きが取りづらい状況になってしまった。
 半泣きで少しずつ移動していると、突然誰かに手を引っ張られぎゅっと握られた。


「わ!?」
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