恋がはじまる日

 そのままその手の主は私の手をしっかり握ったまま、どんどんと先に行ってしまう。


「え、え、ちょっと!」


 その人は人混みを綺麗に避けながら、あっという間に人気の落ち着いた場所へと連れて行ってくれた。繋がれていた手がぱっと離される。

 私は呼吸を整えると、お礼を述べる。


「よかった、椿ありがとう!うまく歩けなくて困ってて…」


 そう言いながら顔を上げると、うんざりしたような顔の藤宮くんと目が合った。


「え!あ!藤宮くん!?」

「悪かったな、三浦じゃなくて」


 彼は不貞腐れたようにため息をつきそっぽを向く。


「どうして藤宮くんがここに!?今日バイトがあるって」


 疑問をそのまま口に出す。何故藤宮くんがこんなところにいるのだろうか。


「バイトの帰り。たまたま寄ってみたら、お前が通路の真ん中で通行人の邪魔になってるの見つけたから」

「うっ。確かに邪魔になっていたかもしれないけども」

「高校生にもなって迷子か」

「ううっ」


 そんな言い方しなくても…と少しむくれて見せたが、困っていたのを助けてもらったことに変わりはない。


「あの、ありがとうね!」


 そうお礼を伝えてみる。彼は相変わらず「別に」と一言短く答えた。
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