恋がはじまる日

 学校に到着し、昇降口で上履きに履き替えていると、


「佐藤さん」


と後ろから声を掛けられた。
 振り返るといつもの優しい笑顔。菅原先輩が手を振っていた。


「先輩、おはようございます!夏休みはありがとうございました!」


 そう元気に挨拶をすると、先輩はにこりと笑った。


「こちらこそ。勉強に付き合ってくれてありがとう」

 先輩は少し表情を引き締めるとこう続けた。


「今日のお昼休み、少し時間あるかな?部活のことで」

「はい!大丈夫です」

「ありがとう、昼休みに屋上に来てもらえるかな」

「わかりました」

 そう答えると先輩は「それじゃあまた昼休みに」と言って、三年生の校舎の方へと歩いて行った。


 先輩、なんのお話だろう?部活のことなら、部長にも声掛けておいた方がいいかな。もう連絡いってるかな。


「誰、今の人」

「菅原先輩。サッカー部の先輩だよ」

「ふーん」

「って!」


 普通に会話していたけれど、誰!?と思い振り返ると、そこには。


「藤宮くん!?」

 少し鬱陶しそうに私を見る、藤宮くんがいた。


「なんでそんなに驚くんだよ」

「急に現れたらそりゃ驚くよ、盗み聞きしないでよねっ」 

 いつもからかわれている分、ちょっぴりむくれたように言い返してみた。けれど。


「自意識過剰」

とさらりと返され、彼はさっさと教室へと歩いて行ってしまった。


 うん、今学期も藤宮くんは相変わらずだわ。


 頭の片隅でいつも通り話せていることに、少し安堵した。

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