恋がはじまる日
 食べ終わってから友人とだらだら喋って、ふと気付くと美音は教室にはいなかった。普段ならまだゆっくりおしゃべりしている時間だと思ったけど。トイレでも行ったのかな。
 ノートはまたあとで借りればいっか。

「椿、外行こうぜ」

「おう」

 特に気にすることもなく、友人に誘われるままに俺は教室を出ようとした。


「おい、三浦」

「ん?」


 教室の入口に手をかけたまま振り向くと、声の主は予想外な人物だった。


「藤宮?」

 こいつが俺に声掛けるなんて珍し。なんだかんだ言って、こいつはやたら美音と話してる気がして気に食わないんだよなぁ。
 自分でどんな顔をしていたかは分からないけど、優しい声ではなかっただろう。良くも悪くも、俺は素直なので感情が表情や声色に出やすい。


「なんか用?」

 しかし藤宮は顔色一つ変えず、淡々と続ける。


「お前、遊んでていいの?」

「は?」


 全く話の要領を得ない。藤宮は俺に何を言いたいのだろうか。

 すると藤宮には珍しく、笑ったように見えた。


「お前、あいつがどこに行ったか知ってるか?」

「あいつ?」

 あいつって誰?いや、俺と藤宮の共通の人物なんて一人しかいない。


「あいつって、…美音のこと?」

 彼は無言で頷く。


「屋上に行った、先輩に会うために」

「なっ!?」
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