恋がはじまる日
私達のクラス二年D組は、飲食のお店を出すことになっている。メイン料理はパスタの、イタリアン風のお店だ。
パスタのメニューは、ミートソースにカルボナーラ、ペペロンチーノにたらこ、デザートにケーキとアイス、飲み物は紅茶とコーヒーとオレンジジュース。お好きな組み合わせで提供する予定だ。
今日は文化祭なので、クラスTシャツを着ている。イラストが上手な桜ちゃんや雪乃ちゃんが、可愛くデザインしてくれた二年D組専用のTシャツだ。その上にエプロンを付け、三角巾を巻く。
私の担当はと言うと。
「さて!仕込みを始めますか!」
そう、私はパスタを作る、キッチン担当なのだ。
「美音ー、パスタの麺ここ置いとくよー」
「ありがと、椿」
麺がぎっしり入ったダンボールが、どさりと机の上に置かれる。
「ごめんね、手伝わせちゃって。椿は接客担当なのに」
「いいよ、力仕事は任せろって!藤宮じゃ役に立たなそうだし」
話しながら当人をちらりと横目で見やる。
そうなのだ、なんと私と藤宮くんは同じキッチン担当であり、かつ同じカルボナーラ味の担当でもあった。
夏祭りの時以来、藤宮くんと話してもそこまで苦しい動機は起らなかったように思う。
隣の席なので少し話したりはするけれど、普段と特に変わりはなく普通に話せている。やはりあの日の変な動悸みたいなものは、疲れと暑さのせいだったのかな。
藤宮くんはいつもと変わらず、ちょっと面倒そうにエプロンを付けていた。
藤宮くんは私のこと、どう思ってるんだろう?
「なんか困ったことあったら呼んで!教室にいるから」
そう椿に声を掛けられて、私ははっと我に返った。
「あ、うん、ありがと!椿も頑張って!」
軽く手を振ると、椿は2Dのクラスへと駆けて行った。